卒論、公園デビュー
2016年12月21日。卒論提出の締め切り前日に、私は小竹向原の駅へと降り立った。
小竹向原から徒歩10分のところにある製本所に、製本をお願いしていた卒論を受け取りに来たのだ。
5500円を支払い、卒論を受け取る。
製本された卒論を胸へ抱きかかえた瞬間に芽生えた感情は、自分が苦労して産み落としたものへ対する母性愛そのものであった。
出来はよくないかもしれない。(締め切りに追われたからロジックがガタガタかもしれない。)
しかしこの子は私の最愛の卒論である。三年生のときから大切に大切に育ててきた、我が子である。
製本所から小竹向原の駅に戻る途中、公園があった。滑り台、ブランコ、シーソーがある。鳩が10羽ほどいる。決して広くないが、素敵な公園である。私は我が子(卒論)をここで遊ばせることに決めた。
「わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい」と思い、滑り台にのぼり、背中を押す。我が子(卒論)はためらうことなく、ものすごいスピードで滑り降りていった。初めてでこんなに上手く滑れるなんて、滑り台の才能があるんじゃないだろうか。
次にシーソーで遊ばせる。
シーソーに乗せてみると、卒論の重みを痛切に感じた。
公園の鳩に我が子の自慢をする。鳩たちには卒論のことは理解はできなかったかもしれない。しかしこの卒論は私の卒論だ。私だけが認めてあげられればそれで良い。
公園で楽しく遊ばせたのちは、大学へ行き卒論を提出した。公園で情操教育も済ませているので、うちの子はきっと完成時よりさらに心が豊かな優しい子になっていることだろう。
提出時、表紙がひどく汚れていることを研究室で指摘されたが、なんとか受理はされた。
めでたしめでたし。
浅草ロック座で上原亜衣のモザイクの向こう側を見てきた話
2015年11月、上原亜衣がAV引退を宣言した。
通常の女子大生がインスタグラムを開くのとおそらく同じ頻度で2ちゃんねるのまとめサイトを閲覧する私は、上原亜衣という女優とその偉業についても熟知していた。
完全引退の最後の舞台は2016年5月、浅草ロック座のストリップショーであった。
浅草ロック座については大学3年次に受けた「観光地理学」の授業で知っていた。観光地浅草において半世紀以上の歴史を誇るロック座は、現存するストリップ劇場の中で最大手である。
2016年4月、高校時代の友人から「大好きな上原亜衣ちゃんが引退しちゃうからぜひストリップ観に行きたい。一緒に行こう」と連絡があった。就活で内定が出ず気が狂い始めていた私は現実から逃避したかったので「いいね!」と快諾した。ついでに「単純にストリップに興味がある」という高校時代の友人をもう一人を誘って、女3人で未知の世界ストリップ劇場に足を踏み入れることとなった。
2016年5月15日。心まで晴れ渡るほどの快晴。田舎のゴリラ養成女子高で屈強なゴリラとして育てられた3人。卒業と同時にバラバラの進路へ進んだが、この日浅草駅で記念すべき再集結を果たした。
ウホウホと近況報告をしながら歩くこと10分。浅草ロック座は観光客の行き交う大通りに堂々と存在していた。ストリップ劇場ってもっとこう、暗い通りにひっそりと存在しているのかと思っていた。あまり目立ってはいけない存在だと思っていた。しかしロック座は浅草の街並みにさも当たり前かのように馴染んでいた。入口は割と開けていて入りやすい雰囲気。緊張しながらチケットを購入。女性は3500円だった。安い。うまい棒350本分の値段だ。男性は高い。うまい棒が500本買える。しかし学割(うまい棒400本分)やカップル割(2人でうまい棒750本分)もあったのでうまく活用してほしい。カップルでストリップ見に来るのってどんなやばい奴らだよと思いながら階段を下りる。おじさんにチケットをもぎられ、劇場内へと入る。会場は既に満席だった。立ち見ではあったが比較的前方を陣取れた。客層は基本的に中年から高齢の男性が多かった。しかし私たち以外にも「若い女」に分類される人をチラホラ見ることができた。上原亜衣には女性ファンも多いと聞く。彼女等もファンだったのかもしれない。
ストリップってムーディな雰囲気の中、女の人が1枚1枚服を脱いでいくのかと思っていた。それはそれはとってもえっちな光景なんだろうと思っていた。しかし実際は全く違った。
ストリップであること以前に美しいパフォーマンスなのである。綺麗な衣装を身にまとった女優さんが音楽と光に合わせ、舞う、踊る。踊っているうちに身に纏っていた布が少しずつはらり、しばらく踊るとまたはらり、と取れていく。あくまで自然に。「脱ぐ」のではなく、はらりはらりと布が自然に落ちていくことで、彼女たちの美しい四肢、肉体が露わになっていく。
あくまで私が見た感想であるが、彼女たちの肉体は劣情を誘うものではなく、芸術であった。公演ごとに7人の女優さんが出演しているが、その1景1景にテーマがある。特に私の印象に残っているのがオフィーリアをモチーフにした女優さんだった。今でも脳裏にその姿をありありと思い浮かべることができる。とても美しかった。
上原亜衣ちゃんはトリの7景だった。他の6人の女優さんたちがスレンダーなのに対し、上原亜衣ちゃんはほどよく肉付きの良い、健康的で溌剌とした魅力のある体型だった。可愛らしい笑顔に天使の衣装がとてもよく似合っていた。ニコニコと笑顔でパフォーマンスする彼女に劇場の全員が虜になっていた。
「ロック座のストリップはエロじゃなくて芸術」とさっきまで主張していたしこの主張を変えるつもりもないが、どの景でも女性器はしっかり露出する。上原亜衣ちゃんも例外ではない。私は上原亜衣ちゃんのモザイクの向こう側をしっかりこの目で見て来た。(上原亜衣ちゃんが無修正のAVに出演していたことはこの記事を書こうと思って少し調べたときに知ったが、それは画面を通してのことなので、私は肉眼(裸眼で視力1.5)で直視した選ばれし数少ない人間なのである。)
余談だが、ロック座でストリップを見て以来、就活の面接の場で、目の前の面接官のオジサンに対し「私は上原亜衣ちゃんのモザイクの向こう側をこの目で見てきたという点で貴様より優れているのだ」と思うことで、自然と自信が湧いてきて堂々と受け答えをすることが出来るようになった。そのおかげかロック座に行ってきてからポンポンと面接が通るようになり内定もポンポンと出て就活は終了した。
就活の面接で堂々としていられるかは心の持ちようによる。心の持ちようは過去の経験に左右される。何か一つ自信が持てるようなものを持っていない就活生には、浅草ロック座でストリップを見てくるようにおすすめしたい。目の前の面接官はおそらくストリップ見に行ったことないと思う。だって面接官みたいなまじめそうな人、ロック座にはいなかった。
人生経験で他人に勝ちたければ浅草ロック座へモザイクの向こう側を見に行こう。
もう上原亜衣ちゃんはいないけど(今どこで何してるのかな……)、亜衣ちゃん以外の女優さんもみんなみんな素敵だった。素敵な女優さんの最高なパフォーマンスをいつだって見ることが出来る。
浅草ロック座は最高のエンターテイメント施設である。
人生経験としてホストクラブに行ってきた話
卒業を間近に控えた大学4年の冬。